マンションの大規模修繕工事とは?
資産価値と安全性維持にはメンテナンスが不可欠
修繕の周期
大規模修繕工事のタイミングは、一般的には12年周期が目安ですが、下表を見ると1回目の大規模修繕は築16年ぐらいが平均となっています。下位25%が13年ですから、おおよそ築13〜16年で1回目の修繕が行われています。
12年ごとに大規模修繕を行うという目安は、国土交通省の「長期修繕計画ガイドライン」によるものです。これはあくまで目安なので、マンション住民の意見や積立金の状況、建物の状態などによって、臨機応変に調整しましょう。
また、2回目の修繕については1回目の約13年後、3回目の修繕は2回目の約11年後と、回数が増えるごとに期間が短くなっています。

工事期間
大規模修繕工事の工事期間は、マンションの規模によってだいぶ違います。50戸未満の小規模マンションは2~3ヶ月で工事が終わりますが、50~100戸の中規模マンションになると、3~6ヶ月の工事期間が必要です。
その理由は、小規模マンションに比べて足場を組む範囲が広くなり、修繕する外装の面積や設備数も増えるためです。
さらに総戸数100戸以上の大規模マンションになると、工事期間もかなり長くなり、半年~1年以上かかります。総戸数1000戸以上のタワーマンションに至っては、足場を組むだけでも大変なので、工事期間も2年以上と相当の期間を要します。
一般的なマンションの大規模修繕工事期間
小規模マンション 50戸未満 |
中規模マンション 50~100戸 |
大規模マンション 100戸以上 |
タワーマンション 1000戸以上 |
---|---|---|---|
2~3ヶ月 | 3~6ヶ月 | 半年~1年以上 | 2年以上 |
マンション大規模修繕工事の流れ
- 建物の調査・診断
- 調査に基づいた施工計画
- 工事会社決定
- 資金計画を確認
- 総会開催・決議
- 工事契約
- 工事実施
- 工事完了確認
- アフター点検
マンション大規模修繕の工事内容
マンションの大規模修繕の主な修繕箇所は、「外壁工事」「給排水管・水道管工事」「防水工事」「共用部の補修工事」「ベランダ・バルコニー工事」などです。
たとえば1回目の大規模修繕では、外壁の塗装工事やタイルの補修工事、外壁のつなぎ目のシーリング工事、屋上やバルコニーの防水工事、鉄部の塗装工事などが中心となります。
2回目以降も含めた大規模修繕工事全体で見てみると、国土交通省の「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」(平成29年)によれば、外壁塗装や屋根・床の防水、給水設備関連の工事がメインに行われていることがわかります。
大規模修繕工事費用の内訳
マンション大規模修繕工事の費用相場
マンション大規模修繕工事の回数と戸あたりの工事費用
出典:国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」平成29年
大規模修繕工事の費用相場は、工事の内容や建物の規模などによって、かなり違ってきます。
国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」(平成29年)によると、1回目の修繕工事の費用は1戸あたり74〜118万円ほどで、平均100万円。たとえば総戸数200戸のマンションであれば、総額の平均は2億円という計算になります。
2回目の費用は1戸あたり76〜120万円ほどで、平均97.9万円。3回目は1戸あたり55万円~106万円ほどで、平均80.9万円でした。
2回目以降は費用が安くなる傾向にありますが、逆に次の工事までの間隔は狭まるので、その点も踏まえて計画を練る必要があるでしょう。
各工事にかかる費用の相場は、次の通りです。
外壁関連工事の費用相場
外壁関連の修繕工事は、大規模修繕の中でもメインで行われる工事で、ほとんどのマンションが実施しています。
外壁関連工事にかかる1㎡あたりの費用相場は、塗装費用が約3,000〜7,000円、補修工事費用が約1,500〜6,500円、鉄部の防錆工事費用が約1,000〜3,000円です。
マンションの場合は一戸建てと違って形や高さがさまざまで、窓の数やエントランスの大きさも違うので、簡単な計算式で平米数を知ることはできません。
単純な長方形のマンションであれば、比較的容易に面積を出せますが、それ以外のマンションは業者の綿密な計測が必要でしょう。
たとえば塗装業者が面積を出すときは、建物をしっかりと図った上で図面を起こし、それをもとに面積を算出して見積もりを出します。さらに足場を組んで塗装する場合は、足場の組みやすさなどによっても金額が異なってきます。
塗装工事の費用は、全体の修繕工事の約3割を占めているので、塗装費用がいくらになるかは非常に重要なポイントです。
給排水管工事の費用相場
給排水設備の工事にかかる費用相場は、給水管の補修費用が1棟全体で約120万円、補修工事費用が約1,500〜6,500円、鉄部の防錆工事費用が約1,000〜3,000円です。
給排水工事もまた、外壁工事に次いで大規模修繕のメインの工事となっています。築年数が経過すると給排水管も経年劣化し、そのまま放っておくと水道水が着色したり、水量が減少したりといったトラブルにつながるため、給水管の状態に合わせて工事を行う必要があります。
マンションの配管寿命は、使用する管の種類によって15年〜40年と開きがあり、一般的には30年前後と言われています。
多くのマンションは、2回目以降の大規模修繕工事で、補修または交換することになります。適切な時期を選んで、工事の準備を進めましょう。
屋上防水工事の費用相場
屋上の防水工事にかかる費用相場は、アスファルト防水工法の場合が1㎡あたり約5,000〜8,000円、シート防水工法の場合は約3,000〜6,500円です。
アスファルト防水工法は耐久性が高く、水漏れの少ない信頼性の高い工法ですが、重さがあるので鉄筋コンクリート造のマンションの屋上で使われています。
屋上の防水をしないで放っておくと、雨漏りや漏水が起こる可能性があり、マンションの鉄筋が腐食したり、建物の耐久性が低下する危険性もあります。
適切な時期に屋上の防水工事を行いましょう。一般的な防水工事のメンテナンス時期は10〜15年前後なので、多くのマンションは1回目の大規模修繕で行っています。
共用部の補修工事の費用相場
エントランスや集会室、屋内廊下などの共用部は、築年数が経つにつれて設備が老朽化したり、機能的に古いなどの理由から、補修が必要になってきます。
たとえば、新たにオートロック機能を付けるマンションや、手動のドアを自動ドアに変更するマンション、照明をLED化するマンションなどもあります。
共用部は日々多くの人が利用するスペースなので、入居者の年齢や時代のニーズなどに合わせて、臨機応変にリフォームを行う必要があるでしょう。
共用部の補修工事にかかる費用相場は、エントランスのオートロック化費用が約50~130万円、エントランスの自動ドア設置費用が約70~180万円、階段の手すりの取り付け費用が約20~50万円、照明のLED化費用が1箇所あたり約3,000~6,000円です。
ベランダ・バルコニー工事の費用相場
マンションのベランダやバルコニーで必須なのが、防水工事です。一般的なバルコニー(8㎡ほど)の防水工事にかかる費用は、1戸あたり約5〜7万円です。
また、ベランダやバルコニーは落下の危険があり、避難経路としても使われるので、耐久性や安全性が保たれているかどうかも十分留意しなければなりません。手すりの腐食や床のひび割れなどは、放っておくと非常に危険なので、必ず補修する必要があります。
1㎡あたりの費用は、手すりの防錆塗装が約1,000〜3,000円、床面のFRP防水工事が約6,000〜9,000円、排水管の補修が約140万円です。
劣化診断の費用相場
大規模修繕には多額の費用がかかるので、無駄な費用を省いて本当に修繕が必要な箇所を見極めるためにも、規模の大きいマンションは専門家による「劣化診断」(建物調査診断)を行うことをお勧めします。
施工会社やマンション管理士が行う無料の劣化診断もありますが、無料診断では主に目視と打診しか行いません。検査器具を使ってコンクリートの耐久性などを診断するためには、有料の劣化診断を行う必要があります。
劣化診断の費用相場は、マンションの総戸数が約30戸で15〜40万円ほど、約50戸で30〜50万円ほど、約100戸で30〜80万円ほど、約200戸で50〜100万円ほどです。
劣化診断を受けることによって、無駄のない修繕工事を行うことができ、建物をより良い状態で長く保つことができるでしょう。
工事諸費用相場
大規模修繕工事では、外壁工事や給排水工事、防水工事といった一連の修繕工事以外にも、さまざまな経費がかかります。たとえば足場の設置費用、現場事務所の仮設費用、産廃処分費用、安全対策費用などです。
工事諸費用の相場は、たとえば約1,000~3,000万円規模の大規模修繕の場合、足場の設置費用が約300~400万円、現場事務所の仮設費用が約10~20万円、産廃処分費用が約10~70万円、安全対策費用が約20~50万円です。
現場事務所は、長期間にわたる大規模修繕工事をスムーズに進めるために設置されるもので、マンションのエントランスの一角にパーテーションを立てたり、集会室を利用して設置したりする場合もあります。
安全対策費用には、工事期間中の安全を守るために配備する警備員の人件費や、工事関係者以外の人が施工箇所に近づかないようにするバリケードなどがあります。
コンサルタント報酬費用相場
大規模修繕工事を行う際は、管理組合が主体となって施工会社を選ぶこともできますし、管理会社に修繕関係のすべてを任せることもできます。
しかし、管理組合のメンバーが建築の専門的な知識を持っていないと、どのようにして修繕計画を立てたらいいかわからない場合も少なくありません。
管理会社に一任する方法もありますが、競争原理が働かないため、相場をはるかに上回る高額の見積りを出されてしまう危険性もあります。
そこでもうひとつの方法としてお勧めしたいのが、「設計監理方式」です。設計事務所やマンション管理士などのコンサルタントに、大規模修繕をサポートしてもらう方法で、いま多くのマンションがこの方式で大規模修繕を行っています。
設計監理方式を選ぶことで、大規模修繕の計画から、工事会社選定のサポート、工事期間中の現場管理まで、コンサルタントにトータルで任せることができます。
管理組合と施工会社の間に第三者が入ることによって、適正価格で安心して工事を発注することができ、工事の手抜き防止にもつながるでしょう。コンサルタントへの報酬の相場は、工事費用の約5〜10%ほどです。
マンション大規模修繕工事の注意ポイント
複数業者に費用の見積りをして比較する
業者によっては見積りに数千万円の金額差が生じる
大規模修繕工事をする際には、複数の業者から「相見積り」を取って、比較検討するのが一般的です。相見積りを取ることで、工事の適正価格がいくらなのかを、把握することができます。
見積り費用は、業者によってかなり違ってきます。大規模修繕の費用は高額なので、規模の大きなマンションでは、業者によって数千万円の金額差が生まれることもあります。
もし1社に絞って見積りを依頼してしまうと、その金額差に気付かずに発注してしまうことがあるので、十分に注意しましょう。
たとえばベランダの防水工事を例に挙げると、1戸あたり5万円の見積りを出す業者もいれば、10万円の見積りを出す業者もいます。
もちろん安ければいいというものではありませんが、あまりにも高過ぎる業者は、避けた方が賢明です。
見積りの一覧表を作って費用を比較する
業者ごとの見積りを比較する際は、すべての業者の提示した費用を、工事内容ごとに分けてひとつの表にまとめましょう。
どこの業者が高過ぎるか、また低過ぎるか。適正価格を提示している業者はどこかを、その表から見極めていきます。
工事のやり方もいろいろあるので、どんな工法で何の材料を使って工事をするのかなども、詳しく確認しましょう。その上で、価格を抑えられる可能性があるか否かも、検討する必要があります。
管理会社に相見積りを取ってもらう方法もありますが、このやり方は危険が伴います。一番安い業者と管理会社がつながっていて、その業者に依頼するように資料が作られている場合があるからです。
やはり業者選びは、管理組合が主体となって動くのが、最も確実な方法でしょう。コンサルタントのサポートを受けながら管理組合が動けば、より確実に優良業者を選ぶことができます。
劣化診断は管理会社任せにしない
劣化診断もまた、管理会社任せにはせず、管理組合がしっかりと入ることをお勧めします。なぜかというと、マンションの劣化具合を管理組合が積極的に把握することで、建物の状態を適切に知ることができ、コストカットにつながるからです。
これまでマンションは管理会社経由で大規模修繕工事の見積もりを立てる慣習があったので、劣化診断も管理会社任せになっていました。
しかし、そうするとどうしても、オーバースペックな工事を提案されてしまうことになります。実はその中には、実際にまだやらなくても済む工事が含まれているケースが、少なくありません。
住民がしっかりと劣化診断に介入することで、どこがどのぐらい劣化しているのかを把握でき、「この箇所はまだあまり傷んでいないので、二回目の修繕に回してもいいのでは?」といった検討をすることができます。
まとめ
マンションの大規模修繕は、管理組合で協力して積極的に取り組むことで、成功に導くことができます。
仕事や家事などで忙しい中、管理組合の方々が動くことは、負担も大きいかもしれません。かといって管理会社に丸投げにすると、費用がかさんでしまうこともあるので、注意が必要です。
必要に応じてプロの力を活用しながら、できるだけ効率よく、満足できる大規模修繕を実現しましょう。
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